林檎物語

林檎物語 | 2021.11.29 Mon
【瀨崎農園】Issue01〜農家になるまでの道と、りんごの力〜

食卓を彩る、りんご。ひとかじりすれば、甘酸っぱくて甘い、ジューシーなおいしさが、口いっぱいに広がります。そんな、おいしさを生み出しているのは、ほかならぬ「りんご農家さん」。そんな農家さんの思いや、農業に対する哲学に、耳を傾けてみませんか?

りんごを愛して奮闘する、りんご農家さんのインタビューをお伝えしていきます。

きっと、りんごの見え方や味わいが、昨日とは変わるはず。

今回ご紹介する農家さんは、長野県北部の山ノ内町で「瀨崎農園」を運営する瀨崎眞也(せざきしんや)さん。農家になるまでは、京都市で主に人命を助ける救急救命士として勤務していましたが、2017年、51歳で長野県へ移住。農業大学校に通ったのち、翌年からりんご農家を始めました。

Issue01では瀨崎さんの「農家になるまでの道と、りんごの力」に迫ります。


目指すのは、笑顔あふれるりんご

「この生命力。龍のように見えるでしょ。」
瀨崎さんが見せてくれたのは、推定樹齢50年ほどのりんごの木。

「一昨年の台風で倒されて、横に倒れましたが、折れずに病気にもならずに、今年も実をつけてくれてはるんですね。」

上へと伸びた樹木は、少し膨らんだ後に地面と平行になり、その後はぐんぐん下へ伸びていきます。まるで龍がうねっているようにも見える樹木。りんごがたくさん成っています。

「私、作業するときに漫才を聞いてるんですわ。だから、りんごたちも漫才をたくさん聞いているんですよ。だから、りんごの機嫌がいいんだと思います。りんごに、私の辛い思いじゃなくて、ちょっとでも笑いを伝えられたら、りんごも応えてくれるような感じがするんです。」

瀨崎さんは、農家になる前の33年間、京都市で消防士として働いていました。体を壊したことをきっかけに退職し、次の人生に選んだのは、りんご農家です。

「もともと庭の手入れが好きだったので、農家はどうだろうかと考えました。そのなかでも、好きな果物のりんごを育ててみたいと、りんご農家としての移住先を探したんです。」

幼少時、病気になった時にお母さまがむいてくれて、おいしかった思い出があるりんご。そして、りんごが好きだったという理由以外にも、りんごに対する思い入れがあります。

「宝塚市で、阪神淡路大震災の被災者になった時のことです。避難所に届いた差し入れのりんごは、忘れられない味でした。」

宝塚市で被災した瀨崎さん。救援物資となる食品は炭水化物が多いため、おにぎりやカップ麺などの食事が続き、体調を崩してしまったのだそう。そんななか、みずみずしいりんごは、乾いた口を潤してくれました。

「うまいなあって、思わず笑顔になりましたね。」

心も潤したりんご。のちに調べたところ、りんごは食物繊維たっぷりでお腹の調子を整える働きもあり、救援物資に向いているのだそう。その後、東日本大震災の緊急消防援助隊として出向いたときには、瀨崎さん自身も非常食としてりんごを被災地へ持っていきました。

「子ども達にりんごを渡したら、嬉しそうにりんごを食べはったんですね。子ども達の顔に、笑顔があふれていたんです。私が作りたいのは、そんなりんご。頬張ったとたんに、思わず笑顔があふれるようなりんごです。」

 

りんごは、りんご栽培の師匠

山ノ内町は、標高600mほど。朝と昼の気温差は10度以上にも達し、10月になると夜温は10度以下に。その厳しい環境でりんごが強くなろうと、甘みを出すために蜜が入りやすい地域なのだそう。長野県のりんごはおいしいと感じていたところから、就農相談会で山ノ内町の熱心な思いを受けて、次の人生の舞台となる地域を決めました。

この畑は、瀨崎さんがりんごの樹ごと借りた畑。年齢的に作業が厳しくなった農家さんが、次の世代へ畑を伝えていく仕組みが全国的にあり、果樹産地を守っています。

りんごと向き合う、試行錯誤の毎日。農業大学校でりんごの栽培方法は習いましたが、実際にやってみると、その通りにいかないのが農業です。

畑が異なれば、土質も異なります。また、気候も毎年変わるもの。りんごの樹への対応は、その都度、状況をみて判断しなければなりません。

りんご栽培において、瀨崎さんの相談相手は、長野県農業試験場の方や、地域の農家の先輩たち。それから、りんごの樹です。

「まだ私はこの畑に来たばかり。だから、この畑に立ち続けている木々は、まだ経験の足りない私に、どうすればいいのか、教えてくれるんですわ。陽の光に当たって輝くりんごの色を見てると、なんとなく分かるんですよ。どぎつい色ではなく、ぼんぼりみたいな色っちゅうんですかね。『蜜、俺持ってるで』『ほんまにそれ取っていいの?』って、声が聞こえてくる気がするんです。私にとってりんごは、りんご栽培を教えてくれる師匠なんです。」

Issue02につづく

 

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