食卓を彩る、りんご。ひとかじりすれば、甘酸っぱくて甘い、ジューシーなおいしさが、口いっぱいに広がります。
そんな、おいしさを生み出しているのは、ほかならぬ「りんご農家さん」。そんな農家さんの思いや、農業に対する哲学に、耳を傾けてみませんか?
りんごを愛して奮闘する、りんご農家さんのインタビューをお伝えしていきます。
きっと、りんごの見え方や味わいが、昨日とは変わるはず。
今回ご紹介する農家さんは、長野県南部の箕輪町で「GRAPPLE TAKADA」(グラップルタカダ)を運営する高田知行(たかだともゆき)さんです。東京でのサラリーマン生活を経て、2011年箕輪町に移住。りんごや自然を軸にした地域活動に力を入れながら、ぶどうとりんごを栽培してきました。「移住後は、家族と過ごす時間が増えた」と高田さんはしみじみ話します。
Issue02では高田さんの「農業を軸にした地域活動」に迫ります。
高田さんが移住してすぐに取り組んだのは、以前住んでいた江戸川区の子どもたちに向けたキャンプイベント「ワイルドキャンプ伊那谷箕輪」です。
「江戸川区に住む人が、箕輪町のキャンプ場に来て自然と戯れることができます。特に川に焦点を当てて、川にどんな生き物がいるのかを見て、知ってもらうことが狙いです。大事にしたのは、水と食。やっぱりこっちに来て思ったのが、水がすごい綺麗なこと。水は、すべての原点ですよね。その川で遊ぶことから、水が巡って自然や私たちを生かすことを知って欲しい。そして、こちらで採れた地元食材を料理して楽しんでほしい。口に運ぶ食べ物は、水の恵みでもありますよね。」
コロナウイルス感染症感染拡大の懸念によって中止になるまでの9年間、地域と都会を繋いだイベント。箕輪町役場の方や、江戸川区に住む仲間の協力を得て、毎年40人ほどの参加者が訪れたそうです。
地域の学校授業では、りんごを活かして携わりました。きっかけは、お子さんが通う小学校のクラスで、畑で栽培する作物を決める際に挙がった意見が「りんご」だったこと。しかし、小学生でりんごは難しいという話になり、ほかの案を考え始めたのだそうです。
「その日の夜、娘が俺に『りんご育てるのって難しいの?』って聞いてきたので、答えたんです。『できる』って。」
そこから始まったのが、りんご体験会。畑で摘花や玉回しをしました。りんごは、陽に当たることで赤く染まるので、綺麗に彩るためには、りんごを回して全体に陽を当てる必要があります。りんごが育つためには、いろんな世話が必要であることを学びました。
「畑作業をして、収穫して、その場所で食べる。それで終了したんだけれど、りんご農家って栽培だけじゃないですよね。収穫してからも勝負。選別して、袋詰めして、お店で売るまでも農業です。」
2年目からは、商品に仕上げて販売作業も行いました。ひと袋1kgに袋詰めすることを目標にするなかで、子供たちからさまざまな考え方や工夫が出てきます。
「1kg で販売することを決めたら『800gだったら、お客さんどう思う?』って聞くと『いやだー』って子ども達。『そうだよね、いやだよね。ちゃんと1kg 入るようにするにはどうしたらいいかな?』と問いかけから始まります。
算数が必要ですよね。誤差としての許容範囲内に収まるのだったら『何gから何gまでのりんごだったら入れていいのか?』だったり『何個詰めがいいのか?』だったり考えます。
ほかにも『傷がある』『色が変』とか、作業するなかで気づいたことが出てきます。傷ついていたらダメだって意見も出ますが、必ず『もったいないじゃん』っていう話になるんです。じゃあ、どういう袋にするのか、みんなで決めるんですよ」
袋詰めは、半日かけて作業を行っているのだそう。袋詰めされたりんごは、地域のスーパーに協力してもらい、販売されます。子どもたちがスーパー入り口付近にテーブルを置いて、りんごを並べて子どもたちが直接お客さんに声をかけます。
「知らない人に声をかけるという経験は、小学校4年生ぐらいだと、あまりやったことがない子が多いんですよ。みんな学校で練習はしてくるけど、最初はドギマギしてますね。そのうち、途中からみんなスイッチが入ってどんどん声をかけ始める。知らない人に声をかけて喜んでもらうっていうのが楽しくなるんでしょうね。
毎年やっていると近所の人も応援してくださって『今年も来たな』と、りんごを子ども達の手から買えることを楽しみにしてもらえるようになりました。」
袋詰めの際、傷ついたりんごは毎年「それは袋に入れるのはやめよう」という話になるのだそう。しかし台風で被害が大きかった年は、その通りにはなりませんでした。
「この年は、私は販売準備に携われないと子どもたちに伝えました。台風被害の復旧のためです。子どもたちはそれを知り、復旧作業を手伝いたいと提案してくれました。」
しかし、被害園に入ることは危険も伴います。先生とも相談して、復旧作業は大人に任せてほしいと話したのだそう。そこで子どもたちが考えたのは、あきらめずに販売会を開くことです。
「畑の説明を書いたカードを入れること、販売会をやることを子どもたち自身が決めました。りんご販売会が私の手を離れ、子どもたちが被害にあった農家を支えようと行動してくれた会となったのです。 」
『台風で傷がついてしまいましたが、おいしいリンゴをつくりました』とカードに記載してお客さんに届けました。
Issue03につづく