林檎物語

林檎物語 | 2022.01.08 Sat
【桃沢青果園】Issue02〜思いが込められる果物〜

食卓を彩る、りんご。ひとかじりすれば、甘酸っぱくて甘い、ジューシーなおいしさが、口いっぱいに広がります。

そんな、おいしさを生み出しているのは、ほかならぬ「りんご農家さん」。そんな農家さんの思いや、農業に対する哲学に、耳を傾けてみませんか?

りんごを愛して奮闘する、りんご農家さんのインタビューをお伝えしていきます。

きっと、りんごの見え方や味わいが、昨日とは変わるはず。

 

今回ご紹介する農家さんは、長野県南部の飯島町で「桃沢青果園」を運営する馬目葉二(まのめ ようじ)さん。桃沢青果園は1926(大正15)年から果樹栽培を行い、長野県で梨栽培を普及させた農園として知られています。1969(昭和44)年には平成天皇皇后陛下のご来訪を受けたこともある歴史のある農園です。

 

「地域全体を産地として盛り上げていくこと、そして新規就農者への支援は私の役割。」と使命感を持って畑と地域に向き合います。

 

Issue02では馬目さんの「思いが込められる果物」に迫ります。

 

ブランド力を維持するために

馬目さんは農園の代表者として、農園の方針を決めていきます。生産や販売方法、価格、売り先、販路拡大の営業も、すべて馬目さんが主体となって行います。

「経営的な方針はもちろん、栽培方法も毎年独自に編み出していくものが多くあって、答えが見つからないこともむしろ面白いですね。サラリーマンを6年間経験しましたが、今の農業の方が私に合っています。いろんなことにチャレンジしたいといつも考えています。」

長年続けていると、農業においての勘が冴えてくるもの。その年の果樹がクレームになる品質であるのか、認められるに値する品質であるのか、だんだんと分かってきます。

「町長さんのお誘いで、飯島町のふるさと納税の返礼品を引き受けたり、贈答用として通販で扱っていますが、それは品質に自信があるからです。自信がなければやらない。だって恥をかくだけですもん。」

 

 

一方で、その年の結果を見て自信を持てない品質であれば、贈答用を出荷せず、自宅用のみとしての出荷を選ぶこともあります。ブランドとしての信頼をいったん失ってしまうと、なかなか取り返せないシビアさを知っているからです。

「品質の悪いものを出してしまえば、お客さんの期待を裏切ってしまうことになります。離れたお客さんがまた帰ってくることは、おそらくありえないですよね。買って失敗した店舗の商品を、再度チャレンジすることはないんですよ。『ここでは絶対に買わない』ということだけが記憶に残ってしまう。売り上げで言えば、その1年は下がってしまいますが、販売をしない方が、長期で見たら良いでしょう。」

特に、りんごに求められるクオリティは高いとのこと。目先の利益を追えば、失うものが大きすぎる。ブランド力の維持のために、覚悟を持って農業に向き合っています。

 

昨今の異常気象

品質が維持しにくくなってきた理由には、異常気象があります。10年前にはあり得なかったような気象災害が、毎年当たり前に起きるようになりました。春に遅霜、夏には長雨、秋には台風などの災害。1日でも見舞われれば、大ダメージを受けてしまいます。

2021年のりんごは、日照不足や長雨などが影響し、葉っぱが落ちてしまう病気にかかりました。

「だんだんと果樹栽培が難しくなっていると思います。全国の農業に従事している全員が『なんか作りにくい』と感じているはずです。農家は、天気予報を見ながら日々対応していて、夏頃は本当にみんなピリピリしてますよね。特にりんごは、寒い地域で生育する果樹のため、温暖化が進むうちに蜜が乗らなくなります。」

異常気象により、長年の経験が通用しなくなってきた農業。そんななか桃沢青園が目指すのは、強い木を育てることによる、全天候型の果樹栽培です。

「霜が落ちようが、長雨になろうが、台風がこようが、日照不足になろうが、干ばつになろうが、毎年ある程度の品質をキープできる木作りが必要です。そのために、土づくりに力を入れています。」

農園の土は肥えていて、有機質がぎゅっと土にとじ込められています。赤土で砂っぽくなく、雨が降っても肥料成分が流れず留まる土質です。木の近くに溝を作って有機物質をあげたり、藁を敷いたりすると、ミミズやモグラ、微生物が集まり、土が柔らかくなります。そうすると、通気性が良くなり、根の張りが深くなります。

「根っこも空気を吸っているんですよ。土がカッチカチに固いと、根が酸素を求めて地上近くに伸びるので、浅い根になってしまいます。深く根を張れれば、全天候に負けない、強い木に近づくと思います。畑の土がポコポコと盛り上がっていることがあるんですが、そこにモグラがいてくれているんだなぁって心強く思いますね。」

 

 

 

たくさんの工夫があって、お客さんに届く農産物。ひとつひとつが、農家さんの思いや背景を背負っています。

「今の日本は、スーパーに行けば当たり前のように果物や野菜などの食材を買えますが、異常気象が多数発生する世の中において、安定供給はそう長くは続かないと思っています。

食べるものに無関心であることは、生きるうえでやってはいけないこと。農産物が目の当たりにしている環境に、目を向けるべきです。

その一歩として『農産物を食べておいしい』だけじゃなくて『この果物はあの人が作ったんだなぁ』とか『あそこの環境で作ったんだなぁ』などと、農産物ひとつひとつに込められた、農家の気持ちや農園について、思いを巡らせてもらえれば嬉しいですね。」

 

Issue03に続く

Tags & Keyword

LATEST

Tags & Keyword

yama