林檎物語

林檎物語 | 2022.01.11 Tue
【桃沢青果園】Issue03〜地域で農業を育てる〜

食卓を彩る、りんご。ひとかじりすれば、甘酸っぱくて甘い、ジューシーなおいしさが、口いっぱいに広がります。

そんな、おいしさを生み出しているのは、ほかならぬ「りんご農家さん」。そんな農家さんの思いや、農業に対する哲学に、耳を傾けてみませんか?

りんごを愛して奮闘する、りんご農家さんのインタビューをお伝えしていきます。

きっと、りんごの見え方や味わいが、昨日とは変わるはず。

 

今回ご紹介する農家さんは、長野県南部の飯島町で「桃沢青果園」を運営する馬目葉二(まのめ ようじ)さん。桃沢青果園は1926(大正15)年から果樹栽培を行い、長野県で梨栽培を普及させた農園として知られています。1969(昭和44)年には平成天皇皇后陛下のご来訪を受けたこともある歴史のある農園です。

 

「地域全体を産地として盛り上げていくこと、そして新規就農者への支援は私の役割。」と使命感を持って畑と地域に向き合います。

 

Issue03では馬目さんの「地域で農業を育てる」に迫ります。

 

10年後を見据える

長野県内で見ることの珍しい「はるか」の栽培を始めたのは10年前。酸味は少なく甘みが強いのが特徴で、桃沢晴香園の人気の品となっています。

「子どもの頃からお菓子やジュースなどの甘味に慣れていて酸味が苦手な若い世代に向けて、10年前に苗を130本植えたんです。

当時は誰もやってないから作り方を聞く人もいない。チャレンジです。予測して植えて、今こうやってたくさん注文が来ているのは間違っていなかったんだなと思うとすごい嬉しいですよね。」

りんごの木からりんごが収穫できるようになるのは、苗を植えてから8年ほど。経営的な先見の明がなければ、今の時代に追いつけませんでした。

「栽培もしやすい品種なので、共有したいですね。ぜひ地域の人に、うちの畑を見に来て欲しい。」

 

 

地域への貢献

異常気象によって経営に打撃を受けてしまった農園を支援するため、6次産業も始めています。気象災害があれば、りんご同士がぶつかったり、枝に擦れたりしてりんごが傷つくことが多くなりますが、深く傷ついたりんごは、生食用に出荷できません。地域の農園から、そのようなりんごを高値で買い取って、無添加ジュースにして販売しています。

「質はいいのに傷がついてしまったりんごを集めて、水を加えない果汁100%のストレートジュースにして、楽天市場や道の駅、ふるさと納税の返礼品などで扱っています。地域支援として高値で買い取っているので、正直私には利益は出ていません。その代わり、評判を落とさないように、おいしいものだけを集めています。」

ほかにも「〇〇の品種が欲しい」とお客さんから連絡があれば、その品種が得意な農園を紹介する繋げ役になることもあるのだそう。自分の農園だけでなく、地域全体が産地として盛り上がることを意識しています。

「地域への恩返しは、今までお世話になってきた農家の先輩方への感謝の気持ちも込められています。気持ちに余裕が出てきて恩返しができるようになった今では、先輩方も少なくなっていました。受けた恩を、後輩たちへと伝えていきます。」


農業をなりたい職業ランキング1位に

農業人口は、全国的に右下がりとなっているのが現状です。農家の後継であっても、サラリーマンを就職先として選ぶ場合が多いとのこと。サラリーマンとして働けば、農業に付きものの異常気象に怯えることなく、毎月決まった額が入ってくることが理由としてあげられています。

一方で馬目さんは、これからの農家の経営に対して、不安を感じる必要はないと言います。

「自分なりのこだわりをもって、自信をもって出荷できる農産物であれば、必ず生き残れると信じていますし、お客さんに必ず受け入れられると信じています。だって信念をもって作られた農産物には、その人なりの味わいってものがあります。直売所に行って食べ比べてみてください。同じ野菜や果物でも、農家さんによって全く違いますよ。面白いもんです。

それに、人口減少によって消費者が減って、将来農家は困るだろうとよく聞くのですが、農家の数は、それよりももっと早いスピードで減っているのが現状です。」

食べることは生きる基本。食べ物が不必要になる日はありません。それを支える農家は、今までもこれからも、必要とされる存在です。

 

 

果樹農家に挑戦する人を、応援したいという馬目さん。「もし本当にお困りでしたら、私に連絡して。私なりに相談に乗りますよ」と頼もしいお言葉。

「移住も大歓迎。移住はその土地に自分の根っこを張るということですが、張り方は人それぞれです。ぐんぐん大きくなってください。

果樹の仲間にこの話をするとよく笑われますが、私は仲間が欲しいんです。だって、私はさびしんぼうだから。別に威張りたいわけじゃなくて、共に農作業の喜び、成功、辛さを分かち合う仲間がほしいだけです。」

 

引退する農家さんもいらっしゃるので、その農園を引き継ぐ方を探している自治体もあります。せっかくおいしいりんごができる畑でも、育てる農家さんがいなければ、荒れてしまいます。

馬目さんは来年から「新規就農里親研修制度」を利用して、里親として研修生を育てます。

「研修生が自立するために、継承する畑を見つけるところまでは面倒を見ないといけませんよね。結局スタートした後もサポートすることとなるでしょう。

研修生には、もちろん一人前になってほしいし、できれば友達になってほしいし、できればライバルになってほしいですね。私を追い越していってほしい、あいつは俺のところの研修生なんだよって自慢できるくらいに。研修生には言ってませんけどね。プレッシャーになるから。」

馬目さんが就農して20年近く経ちますが、農家の後輩は少ないのが現実です。

「私の目標は、農業を将来なりたい職業のランキング1位にすること。私たちが、楽しくやっている姿を見てもらいたいし、やりがいを知ってもらいたいですね。」

終わり

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