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OnlyOne Story | 2021.08.14 Sat
【株式会社信生】「三ちゃん農業」で シニア世代の幸せな働き方を支援

シニアが長く活躍する職場

 株式会社信生(塩尻市)は、カット加工用のニラを生産する農業生産法人。収穫したニラのほとんどは、親会社である株式会社美勢商事が製造する餃子の材料として使われます。

 美勢商事では元々国内産の野菜のみを使用していましたが、2008年の中国産冷凍餃子の残留農薬問題を受け、材料の安定供給を図るために、2011年からニラの自社栽培を始めました。

 栽培の担い手は定年退職後の60~70代のシニア世代で、パート労働者と委託生産者を合わせて17名。驚くことに、当初はほとんどが全くの農業未経験者だったといいます。そしてその顔ぶれは、この10年間ほぼ変わっていません。

 信生でシニア世代が長く働けるヒントは、かつての日本の農業のカタチにありました。

抜群の相性! ニラ栽培×三ちゃん農業

 高度経済成長期の1960年代に盛んだった「三ちゃん農業」を知っていますか?それまで農家の主な働き手だった男性が、出稼ぎに行ったり他の仕事に就いたりすることで、家に残った「じいちゃん・ばあちゃん・かあちゃん」により農業が営まれることです。

 信生の会長・小松正さんは「私たちが目指すのは、まさにこの〝三ちゃん農業〟です」と話します。「昔の農家は小規模で、手作業が当たり前でした。それが農業の機械化が進み、コストが膨らむと、農家は大規模農業への転換を余儀なくされました。ですが、高価な農機を必須とする農業を続けることは、高齢になるほど費用面や安全面でも難しい。そこで〝三ちゃん農業〟をビジネス化できないかと考えたんです」。

 ニラ栽培と「三ちゃん農業」の相性は抜群でした。「まず、農機が不要。これはニラ栽培ならではの大きなメリットです。散布時期や量の見極めが難しい農薬類も一切使いません」と小松さん。無農薬の作物は「安心・安全」という付加価値を生み出し、農薬のコスト削減にも繋がります。「アブラムシは水洗いで落とせますし、軽い作物なので身体的負担も小さい。難しい知識もいりません」。

 一人につき、受け持つ面積は約500~600㎡。毎日1時間程度あれば作業をこなすことができ、1カ月で5万円ほどの収入を得られます。これをワンユニットとし、2倍、3倍の面積を受け持てば、その分収入を増やすことも可能。「余暇の範囲で無理なく働くも良し、高収入を目指すも良し。働く時間帯も自由ですから、それぞれのライフスタイルに合わせて農業に取り組めます」。

 また、中には「一人では寂しいから」と3~4人のグループを作り、和気あいあいと働く人たちも。リタイア後のシニアの〝居場所〟としても機能しています。

手間を省いて手取りを増やす

 このような働き方と収入を可能とするのは、収穫したニラの全量を必ず美勢商事が買い取るシステム。「市場に出荷する場合、ニラの規格は長さ45~50センチ。約5割は規格外で出荷できないといわれます。ですが、当社のニラはカット加工をするのが大前提なので、全量を使うことができます」。

 当然、作物の選別作業も不要。1日につき1トン分のカット加工能力を持つ自社の工場は、圃場のすぐ近くにあるため、箱詰めや輸送の手間もかかりません。また、冬場は暖房費削減のためハウス栽培は行わず、7月~11月の間に収穫し、冷凍保存していたニラを活用しています。こうして徹底的に経費や手間を省いた分は、そのまま働く人たちの手取り額に反映されるのです。

 信生のニラの生産量、美勢商事グループ全体でのニラの平均消費量は、ともに年間約50トン。最終的には100トンの栽培を目指します。

しかし、現在でも十分に賄えている上、全国的にもニラのマーケットは小さいといわれるところ、なぜ生産量を増やしたいのでしょうか。「うちなら、シニアの方々に幸せで安心できる働き方を提供できると自負しています。だからこそ、今後新しいメンバーにも参加してもらえるよう、余白を持っておきたい」と小松さん。「長く働いてくれている人が多いのが何よりの証拠かな。結構、みんなから感謝されているんですよ」と笑顔を見せます。

有機栽培で若者たちとも繋がる

 2021年、新たな取り組みとして、八ヶ岳中央農業実践大学校と連携。有機栽培専用のニラの種を学校に委ね、有機JASの登録認定を受けた圃場でのニラ生産をお願いしています。収穫したニラは美勢商事が全て買い取り、オーガニック素材にこだわった餃子の材料として使用する予定です。「農業は作物を育てるだけでなく、販売先の確保が肝心。そのような面からも学生さんたちをサポートできればと思っています」。

 農業を志す若者からシニア世代まで、さまざまな人たちの幸せや豊かな生き方を、ニラ栽培を通して支援しています。

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