林檎物語

林檎物語 | 2021.12.23 Thu
【まつじるし農園】Issue02〜絆をつくるりんご〜

食卓を彩る、りんご。ひとかじりすれば、甘酸っぱくて甘い、ジューシーなおいしさが、口いっぱいに広がります。

そんな、おいしさを生み出しているのは、ほかならぬ「りんご農家さん」。そんな農家さんの思いや、農業に対する哲学に、耳を傾けてみませんか?

りんごを愛して奮闘する、りんご農家さんのインタビューをお伝えしていきます。

きっと、りんごの見え方や味わいが、昨日とは変わるはず。

 

今回ご紹介する農家さんは、長野県北部の中野市で「まつじるし農園」を運営する松野 洋祐(まつのようすけ)さん。就農前には関東のお菓子屋でパティシエとして働いていました。「おいしいりんごは、そのままに食べる方がいいのではないか。」とりんごをお菓子にする役割から、育てる役割に移りました。

 

Issue02では松野さんの「絆をつくるりんご」に迫ります。

りんごを通じて人と人を繋ぎたい

松野さんの理想は、人と人の繋がりを生み出すりんごを作ることです。

「おいしいものを食べた時に『あの人にも食べさせてあげたい』とお裾分けしたくなりますよね?自分たちの作ったりんごによって、そんな気持ちが芽生えたら嬉しいです。

今まで繋がりがなかった人同士の繋がりが生まれたり、縁遠かった人同士や、大切な人同士の繋がりが、もっと強くなったりしたら、この上ない幸せです。」

実際に、家族や友人が松野さんのりんごを購入してくれたところから、その知り合いへとりんごがお裾分けされたのだそう。今度はりんごのおいしさを気に入ってくれた方が、次の年もりんごを購入するサイクルが繰り返されています。お客さんの周りに繋がりができると同時に、少しずつお客さんが増えていきます。


そして、年1回行われる京都の神社で行われるマルシェは、お客さんと直接出会える貴重な機会。京都に親戚が住んでいるため、親戚のお裾分けから始まったお客さんが多い場所です。


「どんな人に購入してもらえているのか、知ることを大切にしたいですね。お客さんと話すのは、とても楽しいです。

お客さんのなかには、顔を知っている方や、顔は知らなくても毎年購入してくださる方、りんごの感想を手紙やメールで送ってくださる方もいます。りんごの荷造りの時には、お客さんのことをひとりずつ想像しています。」


“まつじるし農園以外のりんごは食べられない” と言うファンもいて、手応えを感じているのだそうです。

 

農家になるまで知らなかったこと

農家になってからは、パティシエとしてりんごを扱う時には分からなかった苦労を知りました。

「パティシエの頃は、りんごは綺麗に色づいて、蜜が入るのは当然だと思っていました。しかし、現在はりんごは簡単に作れるものではないということを実感しています。昨今は異常気象も多く、とても難しいんです。」

取材した2021年時に採れたりんごは、春に降りた霜の影響で、果皮にざらつきが生じる ”サビ” が出てしまいました。発芽して葉が出始める頃に低温に晒されると、味に影響はないものの、見た目が劣ってしまう被害が出ます。長野県全体でサビ被害の傾向があったようです。

「今年の出来には満足していません。今年のりんごには、正直ショックを受けています。そのなかで、おいしいりんごを選別してお客さんに送っているつもりですが、それでもクレームは入ってしまいますね。」

良いりんごと、悪いりんご。ともに1年かけて同じ手間がかかっているりんごではありますが、真逆の評価が下されます。

「りんごは、スーパーへ行くと100円ちょっとで売られていますよね。一方で、ケーキ1ピースの値段は、今は1つ500円ほど。ケーキは材料を集めてその場で作れますが、りんごは長い期間が必要です。『1年かけても100円。割りに合うのだろうか』と、知人農家さんと話題になりました。

僕も正直、就農するまでは本当のりんごの価値は分かっていなかったのかもしれない。これからは、お客さんに栽培過程や、りんごの価値を伝えていくことを怠ってはいけませんね。」

 

Issue03に続く

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